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コミュニケーション能力のスキルツリー

Communication | Society

新卒採用(2010年3月卒業者)に関するアンケート調査結果の概要をはじめとして、企業が新卒採用に求める能力として毎年「コミュニケーション能力」が1位になっている訳ですが、そもそも企業が求めている「コミュニケーション能力」とは何なのか、という定義についての疑問がしばしば議論になります。

[communication] 「コミュニケーション能力」って、具体的に何だよ | ライフハックちゃんねる弐式

こうした疑問に対して、「妄想:会社がコミュニケーション能力を求める理由 - 発声練習」(A)では

企業が求めているコミュニケーション能力とは、人当たりが良いとか、友達が多くいるとか、そういう能力ではない。企業が求めているのは、他人に未知の事柄を説明するという能力である

とされ、「「コミュニケーション能力」への誤解が生む悲劇とは?」(B)では、

現在の社会が求める「コミュニケーション能力」とは「空気同調能力」でもなければ「理不尽へのストレス耐性」でもありません。それは、複雑な利害関係で成り立っている現代社会において「自らがコンフリクトの結節点に立ち」「コンフリクトの構造を理解し」「コンフリクトの調整に必要な、正確で迅速な情報流通の司令塔になる」という態度と能力のことを指すのです。

と言った説明がされています。

いずれも、確かに現代にあって極めて重要な能力であることは首肯されるものの、一方で、何となく腹落ち感が必ずしも十分ではないかもしれません。

その理由は、人によって「コミュニケーション能力」という言葉から想起されるイメージが異なり、様々なスキルが含められているからです。具体的に言えば、人当たりの良さや人と仲良くなることが重要な職場、仕事は今なお多いのではないか(C)、ということです。冒頭の経団連のアンケートでは、25項目の中から5項目を回答するという複数回答型の質問ですから、自分なりの「コミュニケーション能力」を挙げる企業担当者が多くなるのは当然とも言えます。

そこで、ここでは、様々なスキルが含まれるコミュニケーション能力を包括的に捉えることを試みてみます。

socioarcでは、コミュニケーション能力には論理的なスキル(上記の(A))と、感情的・情緒的なスキル(上記の(C))、そしてこの2つを融合したリーダシップ的なスキル(上記の(B))の3つの方向性があると考えます(ビジネスリーダは感情的なタイプや論理的なタイプなど様々なタイプの人材を共通のゴールに向けて統率し成果を出す必要があるため)。そこで、論理的コミュニケーションと情緒的コミュニケーションを2軸にマップし、スキル間の前提条件を矢印で結んだのが図1となります。

コミュニケーション能力のスキルツリー
図1 コミュニケーション能力のスキルツリー(クリックで拡大)

本来なら更に1つ1つのスキルの説明が必要でしょうが、1つだけ取り上げると、ベーシックスキルに含まれる「情報伝達」は、訳すと「コミュニケーション」そのものですが、仕事におけるスキルの発揮シーンとしていわゆる「報連相」(報告、連絡、相談)が該当します。このスキルは、「事実と意見を区別して説明することができる」ということが本質でしょうか。まさにビジネスコミュニケーションの基本と言えます。

さて、産業構造の変化により、機械・ITによる自動化や工場の海外移転、オフショア化が進み、製造業の雇用吸収力は小さくなっており、サービス業が増える中で、コミュニケーション能力が求められるようになっている、ということがしばしば指摘されています。しかし、そうした時代にあって、コミュニケーションに自信がないために仕事に就くことに障壁を感じてしまう人が出てきてしまうとしたら、社会として人材を有効に活用できないということになります。これは日本の損失です。

[communication] Togetter - 「コミュニケーション能力について」

基本的な社会生活能力を高める上でのSST(Social Skill Training)は有効性があると考えられますが、それ以上については出来る限り適材適所ができないでしょうか。例えば、いくつかの職業を上記のスキルツリーにマップすると、図2のようになると考えられます。

職業別「コミュニケーション能力」マップ
図2 職業別「コミュニケーション能力」マップ(クリックで拡大)

中でも、コミュニケーションに自信がないために仕事に就くことに抵抗感を感じてしまうというのは、一般に、縦軸(情緒的コミュニケーション)に不安を抱えていることが多いと想定されますが、縦軸は相手を喜ばせたり、共感したり、単純に他人への興味だったりが求められ、後天的に高めるのが必ずしも容易ではありません。

そこで、無理に縦軸を強化するよりも、まずは横軸の論理的な思考力や表現力を高め、かつ、これならば負けないという領域を持つことが有効と考えられます。少なくともその領域の中では自信を持って仕事ができ、時間をかける中で、縦軸も少しずつ高まっていくことが期待されます。そしてこれは、従来の大学教育でも、卒業論文の執筆を初めとして、それがきちんと行われているのであれば、高めることができる性質のものです。書籍なら「考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則」が定番でしょう(最近であればもっと読みやすい書籍もたくさん出ています)。

4478490279考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
バーバラ ミント グロービスマネジメントインスティテュート Barbara Minto
ダイヤモンド社 1999-03

by G-Tools

加えて、サービス業の特性にもヒントがあります。先に、製造業からサービス業への産業構造の変化、言い換えればモノからコトへの変化が、「コミュニケーション能力」(特に情緒的なコミュニケーション)の重要性を高めたということがありましたが、実際はサービス業にもモノの要素が全くない訳ではありません。サービスの品質には「成果品質」と「プロセス品質」があるとされます。例えば、ホテル業であれば、料理の美味しさやハコモノ(建物・部屋)の良さは成果品質に当たり、従業員の接客はプロセス品質に当たります。最近こそ医療にも高いカウンセリング力が求められるようになってきましたが、人当たりだけパーフェクトなヤブ医者と、愛想は悪いが腕は確かな医者、どちらにかかりたいか、ということです。「成果品質」と「プロセス品質」が求められる割合は、サービス業の種類によって異なりますので、サービス業の中でも「成果品質」の割合が高い業種・職種を選択することが、有効な可能性が高いと考えられます。

すでに書いたように、この難しい時代にあって、企業が「コミュニケーション能力」を求めるのは当然ですが、一方で、学生をいたずらに萎縮させないためにも、各企業が自社が求めている「コミュニケーション能力」の中身を掘り下げて説明することが望まれます。中身が分からない「コミュニケーション能力の高い人材を求めている」というメッセージは、むしろ企業のコミュニケーション能力の無さを露呈しているのです。

Posted: 2011年02月05日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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