Columns: Subculture
利用シーンで考える
Subcultureその強烈な個性とクリエイティビティで一目置いているライアーソフトの、山原氏のコラム、日本代表サッカーとエロゲ業界の意外な共通点とは!? については、恋愛系アニメ/ビデオゲーム(以下単に恋愛ゲーム)を扱うサイトであるloveless zeroが触れない訳には行かないだろう。記事では、
暴論ですが、恋愛アドベンチャーは、最も作り手側の創意工夫を要さない、記号・パーツを入れ替えるだけで「新作」と称し得る、安全便利なジャンルとして、消費され、主流化しているに過ぎないのではないでしょうか。たまにそういうゲームが流行るのは良いのですが、主流になってしまうのは、明らかに異常です。
と苦言を呈されているが、すでに5年前から拙いながらどれをやっても同じだと書いてきており、これについて異論を差し挟む余地はない。
loveless zeroではRagna(Character)から始まりAttribute、Story、Playabilityと、次々にデータベースや「標準」を打ち出し、この方向性に加担しているように思われるかもしれないが、意図としては全く逆で、こういったコンポーネント群(Attribute→萌えコンポーネント、Stroy→ストーリコンポーネント、Playability→システムコンポーネント)を、アセンブリ化することで再利用可能にし、コモディティのレベルにまで落とし込むことで、それを超えたところでしか差別化できなくし、全体の水準を引き上げたいというのが、僭越ながら本来の狙いである(この次には「演出」のライブラリ化を検討している)。ただ現状は、指摘されているような工夫のなさ過ぎる商品が多く、興味を引かれるのは「Quartett!」などのようにごく一部に留まっているのが残念である。
また、その前の
恋愛アドベンチャーというジャンルがありますが。これは僕の定義では「AVGではない」ということになります。恋愛を疑似体験する、つまり「シミュレーションゲーム」の一種で、AVGと称すのは明らかに間違いです。
という箇所については、意識的なのか無意識的なのかは分からないが、ゲームのジャンルをその作り手側のアプリケーションの構成ではなく、比較的ユーザの視点で捉えているところが、興味深い。
1年ほど前、恋愛ビデオゲーム産業の基礎分析の「代替品」のところで書いたことの続きになるが、圧倒的な供給過多、消費者優位の中で、メーカの言葉ではなく、ユーザの言葉で語り、そして、ユーザの利用シーン(何を満たすためにそれを利用しているのか)で考えることが必要になってきているのである。この視点からは、テキスト、絵、音楽、音声を垂れ流すコンテンツから、ユーザが得られるエクスペリエンスは、少なくとも「アドベンチャー」ではない。ただ、疑似体験を目的としている訳ではないので、「シミュレーション」かと言えば、そうでもないのだが。
恋愛ゲームの利用シーンは、人によって異なるが、i)萌え消費、ii)エロ消費、iii)物語消費の3つに大別されると考える。
i)萌え消費
キャラクタ消費とも言える。「キャラクタ」「絵」「音声」「テキスト」を重視する傾向。若年層、恋愛経験が少ない層ではエロ消費と被っていることも多い。
ii)エロ消費
最も分かりやすい利用シーン。はるか昔に、Libidoが「オカズウェア」というコンセプトを出していたが、その意味では全くもって正しい言葉であったと言わねばならない。「エロ」「絵」「音声」「テキスト」を重視する傾向。
iii)物語消費
ビジュアル/サウンドその他演出を含む物語を消費する利用シーン。「シナリオ」「演出」「音楽」「テキスト」を重視する傾向。
少なくとも恋愛ゲームについては、ユーザの利用シーンと乖離したアドベンチャー(AVG)やシミュレーション(SLG)という言葉はもはや適切ではない。代わりに、重点を置くユーザ利用シーンを反映した、萌え(キャラクタ)ゲーム(CRG)、エロゲーム(ERG)、物語ゲーム(SRG)、と呼ぶのが適切だと考える。
元記事に戻れば、ユーザの利用シーンとして、「探求消費」がどの程度あるのかがカギということになる。詰め込み型の教育を受けた結果、「答えは与えられるものである」ことに慣れてしまっている若者が、どの程度「探求消費」に魅力を感じるかという心配はあるが、ニーズは固定的なものではなく、「開発」されうるものである。少ないながらも、こうした骨のあるメーカが存在しているのは頼もしい。
Posted: 2004年03月07日 06:24 ツイート