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Columns: Society

社会現象のハイプ曲線(2005-2006)

Communication | Society

今年も終わりという事で、恒例の(?)社会現象のハイプ曲線のエントリ。初めての方に軽く紹介すると、sociologicで扱っているような社会・コミュニケーション関係のトピックについて、世間でどのように話題になったかをグラフに表しつつ振り返るもの。通常、メディアで話題になり盛り上がった後、一旦クールダウンし、改めて本格的にその現象がホットになり出すに従って、また話題になる、という傾向を示すということで、ハイプ曲線(*1)をインスパイアした図を採用している。

(*1)もともとはテクノロジに適用されるもの。→hype cycle(新しい技術が登場した後の動きを類型化したもの。すなわち、(1)新技術が発表されると過剰な期待が起こる。(2)実際に利用してみると幻滅する。(3)正しい利用方法が知れ渡ると再度注目が集まる。(4)やがて安定期に入る。)

最近ではブログの普及に伴い、ブログであるキーワードがどれだけ出現したかを調べる便利なツールが出て来ている。期間も中期のものから即日のものまで様々あり、精度はともかく、眺めているとなかなか面白い。

今回、これらのツールも参考にしながらハイプ曲線を描いてみる。

社会現象のハイプ曲線(2005-2006)
社会現象のハイプ曲線(2005-2006)

「少子化」「高齢化」はここ20年来安定して話題になっているものの状況が変わっておらず、むしろ進行しているが、もはや国民が慣れ過ぎているためか、最近では「超少子化」「超高齢化」などとされることもある。寿命の伸びに限界が見えて来た「超高齢化」の方はともかく、「超少子化」は少し先の傾向を示す東京が出生率1を切っているだけに、まだまだ進む可能性が高く、今もう「超」を使ってしまったら次はどうするのだろう、という心配もなきにしもあらずである。

また、「少子化」に関連して2005年には予測より早く日本の総人口が減少することが確実となり、改めて「人口減少社会」として話題に上った。もちろん、人口減少自体が問題ではなく、労働力が確保されることが問題という話もあるが、「ワーク・ライフバランス」が十分に満たされない中ではますます少子化に加担してしまう原因にもなりうる。それゆえ「ワーク・ライフバランス」の重要性が研究者や生活者から繰り返されているが、企業における実践が進むまでにはまだ時間がかかると思われる。また、女性、高齢者、若者に加えて、第4の即戦力リソースとして、移民導入の話が来年以降改めて盛り上がる可能性が高い。

このような中では、「人口減少社会」を前提としてそれに対応した社会制度に変えて行き、ここ2,30年の団塊世代が高齢者となる期間を何とかしのぐという方が現実的であり期待されるが、とはいえ急激な変化を避けソフトランディングさせるための少子化対策も並行して実施されることになる。日本における少子化の第1要因は、晩婚化や「非婚化」によるものであるという認識が普及しつつあるが、その原因は経済(収入)面の2極化と恋愛面の2極化であることが指摘されている。

経済面においては、収入はそれなりだが長時間労働に蝕まれる正社員と、派遣社員や「フリーター」および「ニート」に代表される不安定雇用の2極化した「経済格差」がある(*2)。景気回復と学生数の減少による需給バランスの変化により、新卒学生の就職状況は改善しているが、それ以前の人が再挑戦できる機会は十分に広がっているとは言えない。育児で退職した女性なども含めて、再挑戦できるという本当の意味での「流動性」の実現が期待される。

(*2)終身雇用がなくなる中で正社員も不安定化しているが、比較として。

一方の恋愛面の2極化は、主に男性があぶれるという形で現れており(結婚の社会学―未婚化・晩婚化はつづくのか(山田昌弘)によれば「男余り」はウソらしいのだが…?)、特に2005年は「非モテ」論議がヒートアップした。十分に追いきれてはいないが、結局答えが出ている訳ではなく、単にブロガーに誰でも参加しやすいネタを提供しただけで、話題性を消費された後も、本当に悩んでいる人はそのまま放置されているように思われる(*3)。一方、より本質的な問題としては、コミュニケーションにおける困難さとしての「非コミュ」に関心が移りつつある。

(*3)話題を提供しただけ、ということでは、商業主義化・「見世物小屋」化された「アキバ系」も同様と言える。

このような2x2=4極化、すなわち「1)長時間労働+恋愛参加」「2)不安定雇用+恋愛参加」「3)長時間労働+恋愛不参加」「4)不安定雇用+恋愛不参加」のどの領域をサポートしていくかということで、1)が先ほどの「ワーク・ライフバランス」であり、2)が雇用支援ということになる。2)については2005年には「若者の人間力を高めるための国民運動」なる活動も始まったが、「人間力」が既得権益層に都合の良い概念に留まるのであれば、当の若者に届くのは残念ながら限定的と思われる。

また、2極化ということでは、9月以降には「下流社会」がヒットした。昨年から続く「希望格差」同様、「階層化日本と教育危機—不平等再生産から意欲格差社会(インセンティブ・ディバイド)へ」の焼き直しだが、ネーミングが良く、タイミング的にも格差社会化を肌で感じ始めている生活者の心を捉えたことが大きかった。意欲格差は、「経済格差」および「非モテ」(恋愛格差)の両方に効いてくる。言葉自体は2006年には次第に下火になっていくだろうが、これから10年をかけて更に実体化していくことになると思われる。マーケティング的な面でも、2005年には富裕層向けの商品・サービス開発が活発化したが、収入や資産だけでなくよりライフスタイルを意識した「LOHAS」も話題になった。

今回のハイプ曲線に載せたような様々な社会現象は、相互に関係し合っている。そのため、特定の現象や問題に対して場当たり的な政策を打つのではなく、どのような社会にしたいのかという社会全体の設計と最適化が求められている。

それでは、よいお年を。

【参考】
社会現象のハイプ曲線(2004-2005)

【関連書籍】

4883994422なぜ結婚できないのか 非婚・晩婚時代の家族論
菊地 正憲
すばる舎 2005-04-21

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4000093509格差社会をこえて
暉峻 淑子
岩波書店 2005-04

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4750321826日本の移民政策を考える―人口減少社会の課題
依光 正哲
明石書店 2005-09

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Posted: 2005年12月31日 08:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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