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Columns: Society

ホスピタリティ・DNA (続・サービス化する社会)

Society

前回、サービス化する社会では、サービス産業の拡大や、その他の産業にもサービスの要素が大きくなり、感情(共感)的な能力が要求されてくるということを書いた。今回、「サービス」をひとくくりにするのではなく、より厳密には、少子化+人口減少社会化により、「生産性」を高めることが日本社会にとって課題になってくると、「サービス」の中でも高い専門的技術・知識が要求される「プロフェッショナル・サービス」と、それらを含む人々をもてなす「ホスピタリティ・サービス」(*1)の存在感が高まって行くことが想定されるため、2つを分けた上で考えてみる。

(*1)ホスピタリティ=思いやり、もてなし、 他人へのやさしさ。(NPO法人日本ホスピタリティ協会より)

具体的には、前者は会計士、弁護士、コンサルタントや、投資銀行などの資産運用機関などがあるが、特に金融商品のメタ化が進み、実体経済を超えて貨幣経済が拡大する中では最も「生産性」が高いのが金融・投資ビジネスなので、日本の「生産性」を牽引する役割としてその重要性はますます高まるだろう。

一方、後者は飲食、ホテル、医療、介護関係がメインの比較的生活に密着したサービスで、こちらはそのホスピタリティの高さが特に競争優位性となる。人が喜ぶのが嬉しくてやっている人は儲かるはビジネス全般に関わる話であるが、ホスピタリティ・サービスでは、まさにこの「人が喜ぶのが嬉しい」ということが、スタッフのマインドとして根付いている必要がある(*2)。そして、実際のところボリュームとしての雇用吸収力は、後者のホスピタリティ・サービスの方がより大きな役割を果たすことになる。人と接するサービスだけが、どうしても日本国内で必要なものだからである。

(*2)もちろん、前者でも人と接する際にはホスピタリティが必要だし、後者でもそれぞれの専門技術・知識は必要だが割合の問題として。

さて、そうなると多くの人にとって身につけるべきなのがホスピタリティになるのだが、このホスピタリティというものは、果たしてある程度成長した後で、努力や、学校による職業教育によって獲得できるものなのだろうか。「サービス」を超える「ホスピタリティ」を考える上でも面白く、世界でトップクラスのホテルの1つについて書かれた「リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間」では、人の資質としか言えない部分を基準にしていることが、明確に書かれている。

(前略)リッツ・カールトンが採用の基準として、サービスに関する技術や知識より、その人固有の性格や価値観といったパーソナリティを重視しているからです。
サービスの技術や技能は訓練すれば習得できます。知識もキャリアも積めば自然に身に付くものです。しかし、その人の人格や価値観は長い時間をかけてつちかわれてきたものであり、あとからそう簡単に変えられるものではありません。テクニックはあとから訓練できたとしても、パーソナリティは鍛えられないのです。(p.143)
スキルは磨くことはできても、人格を鍛えたり変えたりすることは非常に難しい。人格それ自体が才能のひとつであり、ダイヤモンドの原石を掘るように探し出して、今度は企業哲学・理念という研磨機にかけて品格に仕上げていくのです。(p.185-p.186)

もちろん、全てのホスピタリティ・サービスが、リッツ・カールトンのような高級ホテルレベルのホスピタリティを要求する訳ではないが(*3)、とはいえ、サービスの競争が一段と進めば、もはや人に染み込んだホスピタリティ・DNA(*4)とでも言うべき資質が、ホスピタリティ・サービスでは、決定的な能力となってくる可能性がある。同書でも、専門性が高い歯医者の例が掲載されている。「リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間」も、よくsociologicで引き合いに出す「魂の労働―ネオリベラリズムの権力論」も両方とも良い本だが、よりどちらに共感するかで、すでにスタートが違っていることなる(そもそも論点が違うが)。

(*3)例えば、ファストフード店やコンビニにそこまでのホスピタリティは誰も期待していないだろう。
(*4)ここでは比喩的な意味で。本当に遺伝子で決まってしまっているとすると優生学っぽい話になってくるが…。恐らく、幼少期の両親から受けた愛情や、中学生ぐらいまでの友人関係は強い影響を与えそうである。ここにきてベーシックアクノリッジメントの話に繋がる。

そうした意味で、高等教育における「職業教育」が余りにも楽観的に見えるのは、プロフェッショナル・サービスに就業する上ではいくらかの効果を期待できたとしても、雇用の主力となるホスピタリティ・サービスに就業する上での効果が疑問であり、ごく一部の人にしか有効でない、限定的な効果しか期待できないことがあるのである。

【関連url】
[business] ホスピタリティ
[business] サービスからホスピタリティの時代へ (pdf)

【関連書籍】

4761262788リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間
高野 登
かんき出版 2005-09-06

by G-Tools

4388153079ホスピタリティ進化論―いまさら「ホスピタリティ」なんて!?
松坂 健
柴田書店 2005-12

by G-Tools

「いま、あらゆるビジネスがサービス業になった!」だそう。

4492531335プロフェッショナル・サービス・ファーム―知識創造企業のマネジメント
デービッド マイスター David H. Maister 高橋 俊介
東洋経済新報社 2002-02

by G-Tools
Posted: 2006年02月13日 08:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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