Back Numbers | Home

Columns: Society

モジュール化する社会

Communication | Society

以前、「サービス化する社会」では、サービス産業の占める割合などから社会のサービス(もちろん「無償の」という意味ではなく)化について書いたが、表側でサービス化が進んでいる裏側では、「モジュール化」が進んでいるということでもある。「モジュール化」とは「モジュール化 新しい産業アーキテクチャの本質」によれば、

「モジュール」とは、半自立的なサブシステムであって、他の同様なサブシステムと一定のルールに基づいて互いに連結することにより、より複雑なシステムまたはプロセスを構成するものである。そして、一つの複雑なシステムまたはプロセスを一定の連結ルールに基づいて、独立に設計されうる半自立的なサブシステムに分解することを「モジュール化」、ある(連結)ルールの下で独立に設計されうるサブシステム(モジュール)を統合して、複雑なシステムまたはプロセスを構成することを「モジュラリティ」という。(p.5)

ということである。日本企業では比較的インテグラルな方に強みがあり、それほどグローバルレベルでの産業の「モジュール化」は進んでいないが、それを支えているのは社員の非正規化や偽装請負の活用という形での労働力のオンデマンド化によるコスト削減であり、ある意味で労働力の「モジュール化」とも言えるものである。

今回は、製品や企業のビジネス機能の「モジュール化」ではなく社会機能の「モジュール化」について考えてみたい。日本の企業で「モジュール化」への慎重な対応が行われているのとは対照的に、社会機能の「モジュール化」は急速に進んでいる。例えば、教育や医療は従来から専門家に委託してきた訳が、近年、家事・育児・介護といったものについても家庭から分割、外部化されシェアドサービスとして利用する方向にある(*1)。本来家庭で行うものであったしつけの外部化が進んでおり、学校に過大な負担がかかっていることも問題視されている。

(*1)ただし社会保障費の削減を意図して福祉機能などを家庭に戻そうという動きもあり、政府の期待と個人のニーズは合致していない。

これらの社会機能は言うまでもなく田舎の大家族であれば、モノリシックな(一枚岩型の)家庭(や地域社会)で閉じていたものである。「富の未来」でトフラーはそうした家庭内で生産消費者によって創出される価値に目を向けよというメッセージを出しているが、非金銭経済に価値が見いだされにくい風潮が造成されつつある日本では、生産消費としての家庭の役割はむしろ解体される方向にある。

これはどちらのモデルが良いということではないが、個人の快を追及したり、高度な専門性を求めたり、効率化やスピードを進める中では、「モジュール化」し外部化する流れは不可避であるように思われる。例えば恋愛もまた不倫の容認化という形で家庭からある種「モジュール化」しつつある。家庭ということでは、女性の社会進出の進展と男性の雇用の不安定化や収入の低下によって、かつての企業戦士+専業主婦モデルが破綻しつつある中で、性格もルックスも、仕事も家事・育児も、といったパートナへの高望み傾向は依然として根強いものの、大多数の人にとってはほとんど非現実的であるため、全体としての社会の効率性ということでも、個人の生活の質の向上という意味でも、従来のインテグラルな、ある意味では「抱き合わせ型の」家庭モデルから、互いにカプセル化されブラックボックス化した「仕事担当」「遺伝子担当」「恋愛担当」などがそれぞれ得意分野によって分化し、モジュール単位での競争やシェアドサービス化が進んでいく可能性がある。

さて、製品や企業の「モジュール化」を進める上で必要なことは「製品・業務・システムインタフェース(プロトコルを含む)の標準化」である訳だが、それでは様々な社会機能が「モジュール化」される時代において、モジュールとモジュールを結び付ける上でキーになっているのは何になるのだろうか。それこそがカネとコミュニケーション能力である、と考えられる。カネとコミュニケーション能力が近年しきりに話題に上るのは、モジュール化された社会で、質の高いモジュールへの自由で選択肢の豊富なアクセスを確保し、潤滑に繋げていくのに必要なインタフェースでありプロトコル(あるいはメタインタフェースでありメタプロトコル)が、交換能力の高いこの2つだからではないだろうか。もちろん、実際の場面では、モジュールによってカネのみでOKな場合、コミュニケーション能力だけでOKな場合、両方必要な場合があるだろう。

田舎では都会ほどは貨幣経済が進んでいないがゆえに、同等の(しばしば必ずしも高いとは言えない)収入であっても田舎では裕福な暮らしができるという話があったが、都会では何をしてもコストがかかるため、「普通」の生活をするためのコストが高くなりやすい傾向がある。また、コミュニケーション能力はカネで解決できない、標準化が進んでいない部分であるほど特に活躍する(人間関係が固定的な田舎社会では都会でいうようなコミュニケーション能力は必ずしも必要ではないが、別種のコミュニケーション能力はやはり必要となる)。

例えば、結婚の動機を下げた一要因ともされる中食の普及、デパ地下や街の総菜屋で総菜を買ったりコンビニで弁当をを買って食事をすます、という流れは料理機能のモジュール化ということだが、この購入プロトコル(プロセス)はほぼ完全に標準化(マニュアル化)されており、コミュニケーション能力は不要である。一方、教育や医療、介護、育児、風俗といったサービスになるとインタフェース&プロトコルがやや複雑化し、サービス提供側もしくはサービス利用側にも一定のコミュニケーション能力が必要になってくる(「サービス化する社会」の一側面)。

「モジュール化」社会は必然的にモジュール間の競争を加速し流動性が高くなるが、それを統合していくマネジメントは複雑になり、ストレスフルでもある。本来人間がそうした過剰な流動性に適合しているのかはよく分からない。というよりも、一定の割合の人は、望んでいないようにも思われる。そういった意味で何度かゆり戻しは来るのだろうが、大きな流れとして社会の「モジュール化」は止められないものであろう。

【参考url】
[business] PRESIDENT Online 著者別・該当記事リスト 藤本隆宏
[business] アーキテクチャの比較優位に関する一考察

【参考書籍】

4492393706モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質
青木 昌彦 安藤 晴彦
東洋経済新報社 2002-02

by G-Tools
4062134527富の未来 上巻
A. トフラー H. トフラー 山岡 洋一
講談社 2006-06-08

by G-Tools

Posted: 2006年08月08日 00:00 | Trackback このエントリーをはてなブックマークに追加
Amazon Search(関連しているかもしれない商品)
コメント

アッシー、メッシー、ミツグ君、キープ君(目的別ボーイフレンド使い分け)と本質的に何が違うのでしょうか。浅学なので違いがわかりません。

Posted by: anomy : 2006年08月08日 12:38

anomyさん、どうも。

同じことです。ただ、恋愛のようにもともと流動的な関係で見られた現象が、これまで安定的・統合的と考えられてきたものにも広がっていく可能性ということです。

Posted by: sociologic : 2006年08月10日 23:28

>アッシー、メッシー、ミツグ君、キープ君(目的別
>ボーイフレンド使い分け)と本質的に何が違うの
>でしょうか。浅学なので違いがわかりません。

面白い話しですね。

理想的な彼に本来統合的に求められる様々な機能を、モジュール化して、それぞれの機能別にテキトーに使い分けるということになります。

つまり、誰をどう使うかは、アーキテクトたる私が勝手に選択できる訳で、そういう選択肢(オプション)を持つことが大きな価値(バリュー)であるということをモジュール化理論は示唆しています。

モジュール化は、Mix & Matchの持つ自由度と可能性について触れていますが、アッシーとめっしーとミツグ君とキープさんを同時にミックス&マッチさせるのはちょっと危険かもしれませんけど(笑)

まっ、それもいいかもしれませんね(爆)

Posted by: 安藤と申します : 2007年11月05日 01:33

>アッシー、メッシー、ミツグ君、キープ君(目的別
>ボーイフレンド使い分け)と本質的に何が違うの
>でしょうか。浅学なので違いがわかりません。

面白い話しですね。

理想的な彼に本来統合的に求められる様々な機能を、モジュール化して、それぞれの機能別にテキトーに使い分けるということになります。

つまり、誰をどう使うかは、アーキテクトたる私が勝手に選択できる訳で、そういう選択肢(オプション)を持つことが大きな価値(バリュー)であるということをモジュール化理論は示唆しています。

モジュール化は、Mix & Matchの持つ自由度と可能性について触れていますが、アッシーとめっしーとミツグ君とキープさんを同時にミックス&マッチさせるのはちょっと危険かもしれませんけど(笑)

まっ、それもいいかもしれませんね(爆)

Posted by: 安藤と申します : 2007年11月05日 01:33

申し訳ありません。ダブル投稿になってしまいました。
お許しください。

Posted by: 安藤 : 2007年11月05日 01:35
コメントする









名前、アドレスをブラウザのcookieに登録しますか?