Columns: Subculture
東方にみるエコシステム・マーケティング
Business | SubcultureNHKでもとうとう取り上げられた(東方プロジェクトの創作者ZUN氏が『ザ☆ネットスター!』(NHK BS2)に出演!とか)東方がウケた理由は各所で指摘されていて、
[subculture] はてなブックマーク > 東方Projectはビックリマンの再来か - バレエイメージ研究所日誌
一言で言えば、本家の素材をもとにして3rdパーティが色々できるから、ということで、大体その通りだと思われるが、考えてみればこれは以前に「エコシステム・マーケティング」(*1)で書いたもののコンテンツビジネスにおける例と言えそうだ。
(*1)なお、この辺の話がしっかり書いてあるビジネス書としては「キーストーン戦略 イノベーションを持続させるビジネス・エコシステム (Harvard Business School Press)」があるが、値段と厚さの割にあまり目新しい話がないので、積極的にお勧めはしない。エンタープライズIT系の人であれば、MicrosoftやSAPを念頭におけば大体イメージが分かるはず。要は中核となる競争力のある製品をベースに、周囲の企業が儲かる仕組みになっているかどうかということ。
もっとも、後付けの分析は何とでも言える。たまたま外部ネットワークが活性化し上手くいった、というのではなく、意図的に外部ネットワークを構築することで、マーケティングコストを最適化し、自らも従来以上の利益を上げられるコンテンツを創ることができるようにしなければ意味がない。
そういった点で、商業・同人作品を含め、エコシステム・マーケティングが上手くいったもの(といってもやはり狙ったというよりは自発的に起きたという面が強い)として想起されるのは、「ONE/Kanon」や「ひぐらしのなく頃に」だが、こうした作品の共通的な特徴を抽出すれば、何らかの仮説、ベストプラクティスは得られるかもしれない。実際、作品の構成要素としてはかなり共通しているところがあることが分かる。
キャラクタ | 基本的な属性(萌え要素)を押さえ組み合わせつつも単なるテンプレに留まらない逸脱がある。キャラ絵は「個性的」。同人でより一般ウケする絵師が参加することで補完されやすい。ただしこれが必須条件であるかどうかは疑問も残る(例えば「アイマス」も外部ネットワークが活性化しているが、オフィシャルから普通に可愛い)。 | |
音楽 | 卓越しており、音楽から入る人も少なくない。キャラ絵と異なり、音楽はオリジナルが優れていれば優れている程アレンジ、マッシュアップが集まる。 | |
シナリオ+テキスト or ゲーム | ノベルゲーム系(「ONE/Kanon」「ひぐらしのなく頃に」)とゲーム的なゲーム(東方シリーズ)で異なるが、シナリオ+テキストかゲームのどちらかが卓越している。これでハマった人が初期の外部ネットワークを構成する。ただし、シナリオは一定の世界観を確立しつつも、オリジナル作品で完結しておらず、物語には補完の余地が残されている。 | |
エロ | オフィシャルにはないかもしくはきわめて貧弱。同人で補完されやすい(東方は何故かそれほど活発でないが)。オフィシャルでエロ要素が充実していると、恐らくキャラクタの消費が早くなる。 |
加えて、東方がより外部ネットワークを広げやすいのは、やはりオリジナルの作者が2次創作に極めて寛容なスタンスを取っていることで、同人で稼ごうとする人も集まるし、ユーザに広く人気があるから、ニコ動やpixivで成り上がろうというクリエイターが好んで題材として使うことになり、ますます認知が広がるという好循環が生まれている(自分が最初に知ったのもニコ動だ)。
ただこの2次創作自由にOKというスタンスは商業では辛い。角川はYouTubeにアップされたファン動画のチェック・公式認定化などで、商業でどこまでできるかを探っているようであり、既存の著作権の方にビジネス上の制約を生み出してしまっている可能性に真っ先に気づいていると思われる。
従来の発想からすれば、いわゆるメディアミックスで、オフィシャルで何でも提供し、1つのコンテンツから収益を最大限に搾り取ろうとするのが普通の考え方だが、創作に使えるツールが低価格し、トフラーが言うところのプロシューマ(生産消費者)が増える中で、東方などのように、ユーザが参加できる「遊び」を残すことで、外部ネットワークを巻き込んで全体としてビジネスを拡大するという考え方が商業でも優位に立つ可能性は多いにある。
それでは、東方に全く死角はないか。1点気になるとすれば、外部ネットワークによって初期(ユーザが増加したWindows版の)のキャラクタに圧倒的な厚みが生まれているため、新作で登場したキャラクタの存在感が薄くなってきていないか、ということだろうか。
Posted: 2008年09月12日 00:00 ツイート自分はONEの頃からの鍵信者でしたが、最近になって
東方の音楽にハマりつつあり、麻枝准氏とZUN氏に関して
「音楽的素養と作品の発展性」について共通のものを
感じたりしていたので、この共通要素のご指摘に関しては
まさにその通り!という感触ですね
アイマスに関しては、元絵描き人の感覚からすると
「オフィシャルからして普通に可愛い」のは確かですが、
その“可愛らしさ”は所謂“濃いヲタ絵”的な要素の少ない
(企画時にそれを避けて汎用性を持たせるために
貞本氏を起用したとの事)均整の取れた可愛らしさ、
所謂「薄い」絵柄なのだと思います。
つまり、エロゲや同人での「強すぎる個性」とは逆ベクトルの
(企業媒体企画ゆえの)「汎用性の高い“薄い”萌え」が
いたる絵や竜騎士絵と同様の(ただし指向性は逆)
「俺アレンジ」を可能にしたのではないかと。
Type-Moonの竹内氏も、絵柄自身の性質としてはむしろ
この方向性に近いような気がします。
ひふみーさん、コメントありがとうございます。
私自身、ONEも東方も音楽が気にいって深入りした口ですが、音楽的感性が生み出す作品性(上手く言葉に表現できないですが)に何か引かれる部分があるのかもしれません。
アイマスやType-Moonの絵の件はなるほど、と思いました。確かにどちらもいわゆる萌え系とは異なる(「外」から見れば同じかもしれないですが、「中」的には比較的一般向けな)絵柄ですね。Type-Moonを例として入れるかどうか一瞬考えてでも絵が別に普通だしな、と思って入れなかったのですが、そう考えれば矛盾はしません。ご指摘ありがとうございます。
Posted by: socioarc : 2008年09月17日 02:54突然訪問します失礼しました。あなたのブログはとてもすばらしいです、本当に感心しました!
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