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Columns: Society

社会保障システムの連立方程式を解く

Society

世代的に近い人が多いためか、はてなブックマークでロスジェネ世代の介護の問題が大きな反響を呼んでいる。

[society] はてなブックマーク - いわゆるロストジェネレーションは親の介護をどうするのか、という話 - pal-9999の日記

幸い個人的には、今のところ自分の健康管理・事故だけを注意していればいい身軽な環境だが、少子高齢化による現役世代と引退世代のバランスの崩壊に、不安定な雇用の多いロスジェネ世代(もっとも、ポストロスジェネ世代はもっと不安定雇用が多くなる可能性も指摘されている)が親世代を介護する必要が出てくる10-15年先は、社会保障システムの破綻に最後の一撃を加えることになる。

社会保障費を抑えるために、家庭内に介護を戻そうというのがこれまでの政策であったが、世帯人数がどんどん小さくなる中では老老介護の問題がますます深刻化するだけで、とても現実的とは思えない。そこで介護施設の増加が必要になるが、介護の労働環境が厳しい中では、介護職員数が将来的に全く足りなくなることが予想される。海外から人を集めようにも、看護師がすでにそうなっているように日本語が大きな壁であり、英語の通じる他の国よりも日本を選ぶ魅力に乏しい。

仮に、健康増進に成功し、要介護となる高齢者が減ったとしても、公的年金の持続可能性の問題は残る。高齢者の定義を変える、つまり、年金支給開始年齢を上げるしかないが、財界が懸念を示しているように、企業側も、もうこれ以上雇用延長をするのは無理だ、と考えている。

率直に言って、日本の社会保障システムの未来はほとんど「詰んでいる」状態であり、これが、日本の生活者が閉塞感を感じている1つの理由である(もう1つは、単に貧しくなったからという話を「閉塞感」の正体で書いた)と思われるが、今回、ブックマークコメントを眺めている中で、絡み合った社会保障の連立方程式を解く1つの構想が可能性として見えてきたので、まとめてみたい。

以前、財源の問題について、「持続可能な年金の財源はどこにある?」では、同じ世代(つまり高齢者世代)の中で再分配を行うのが良いのではないか、と書いた。人材の面でも同じ。すなわち、ひとことで言えば「老老介護の社会化」であり、元気な前期高齢者に介護人材として活躍して頂くのである。

まず年金支給開始年齢を75歳に引き上げる。そして、65歳から75歳までの人材を介護人材として転換・雇用し、「現役世代」として引き続き活躍して頂く。「老老介護」は家庭という極めて狭い環境で、多くは1対1で、終わりの見えない介護を続けることが、特に精神的に堪え、時に悲劇を生むが、施設介護では、介護する側とされる側が多対多であり、社会的孤立からは多少なりとも改善される。

異なる職種からの転換、職業訓練や再雇用にかかる費用をどうするかだが、そこに、高齢者人材の「輩出権」の概念を導入する。企業は原則として、年金支給開始年齢である75歳までの雇用継続を求められるが、65歳で人材を労働市場に「輩出」しても良い。その代わり、その時点で65歳の人口数に一定割合をかけた分だけの「輩出権」を政府が売り出し、それを企業が購入することで、継続雇用の義務から解放される。定年の廃止や再雇用のもう1つの選択肢として、「輩出権」購入を加えるのである。企業現場の本音から言えば、経営人材を除けばもてあまし気味な年代となる、「55歳輩出権」を用意しても良い。「輩出権」は、政府からはオークション式で販売し、後は市場で転売しても良い。それを求める企業が増えれば「輩出権」の価格がつり上がり、職業訓練や再雇用への投資もやりやすくなる。高額な「輩出権」購入を嫌がって企業が高齢者人材の自社内における有効活用を進めれば、それはそれで社会にとって有用である。

介護は体力を求められる職場でもあり、若い人でないとキツい、という問題がある。そこで、高齢介護職を支えるための、介護支援技術・システムの産業育成を促進する。パワードスーツのようなロボット産業もその1つである。これの投資にも「輩出権」販売で得たカネを活用する。介護はサービス業であり、サービスそのものは基本的に輸出できないが、サービス提供・支援技術やシステムは海外に売っていける可能性がある。これを次世代の日本を牽引する輸出産業として育成・創造する。課題先進国を生かした「介護立国」を実現するのである。

若い介護職を中心にした介護施設もこれまで通りあって良いが、ある種の「混合介護」というべきか、こうした施設は「付加価値」として入居料・サービス料を高くすることを認める(「混合介護」なので「付加価値」分は全て利用者に負担を求める)。これによって、若年層の介護職の待遇も改善し、隣接的な看護師等へのキャリアアップ等への人材への投資も可能になる。

以上が、次世代の社会保障システムの連立方程式を解く「解」である。もちろん、これとしても完璧ではない。施設介護はスケールメリットを生かす必要があり、僻地では難しい。「地域間格差」の再設計に向けてで書いたような集約の仕掛けが前提になる。

また、日本という国はどこにも逃げられないが、人や企業はノマド化し、海外に逃げることが可能である。富裕層・優秀層や優良企業ほど海外への移転がやりやすい。「輩出権」も一種の規制強化であり、日本にいるメリットが薄れれば、海外への移転は進んでしまう。個人は諦めるとしても、日本をより魅力的な国にするための法人税減税や規制緩和が合わせて必要になるだろう。

Posted: 2009年10月20日 00:00 このエントリーをはてなブックマークに追加
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