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Columns: Partner Style

負け犬マトリクス

Partner Style | Society

昨年2003年、「負け犬の遠吠え」(酒井順子)のクリーン(?)ヒットにより、「30歳以上、未婚、子ナシ」の「負け犬」という言葉が流行ったが、この本は実際は、全然「勝ち犬」が幸福そうに見えないので、「負け犬」でいいですから、という「戦に負けて勝負に勝つ」式の開き直り本であり、決して一方的な勝ち負けになっていなかった。

しかし、この本は作者自身がそういうタイプだからか、違うタイプのある種の「負け犬」層を見落としているか、あるいは意図的に見ないことにしている。つまり、「戦に負けて勝負にも負ける」タイプの人たちである。今回は、一体この「勝ち犬」「負け犬」の分岐点はどうなっているのか、あるいは、同じ「負け犬」の中の分岐点はどうなっているのか、を考えてみよう(*)。

(*)個人的には、どうもこの手の「負け犬」とかいう言葉は好きになれないが、とは言っても現実から目を背けることもできない。

こういう時の整理に有用なのがマトリクス(表)である。まずは女性の図1の「負け犬マトリクス」をご覧頂く。

i)負け犬マトリクス(女性版)

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図1 負け犬マトリクス(女性版)
※各層の%は人数の割合を示すが、あくまで感覚的なものであり、何ら客観的なデータがある訳ではない。

恋愛/結婚に必要な資源には以前にも恋愛競争戦略概論で書いたように、「人柄/性格」「容姿」「コミュニケーション力」「年齢」「資金力」「職業/社会的地位」「家柄」「趣味」「性的魅力/能力」といった様々なものがある。これらの全てを軸にすると訳が分からなくなるのは明らかであり、マトリクスにするには、適切な2軸を選ぶことが必要である。ここでは、以下の2軸で分類した。

  • 社会的(公的)ステータス…「資金力」「職業/社会的地位」「家柄」
  • 個人的(私的)ステータス…「人柄/性格」「容姿」「コミュニケーション力」「年齢」「趣味」「性的魅力/能力」

マトリクスを見て頂ければお分かりの通り、女性の場合、資源価値の評価において、個人的ステータスの効果が大きく、社会的ステータスの効果は比較的小さい傾向がある。個人的ステータスの高低により、「勝ち犬(a)」-「勝ち犬(b)」-「負け犬(b)」と階層化される。特徴的なのが、社会的ステータスが高く、個人的ステータスも中程度以上の「負け犬(a)」の層であり、実は「負け犬の遠吠え」で扱われている「負け犬」とはこの層であると考えられる。経済的に豊かで、しようと思えばいつでも恋愛ができるこの層は、結婚すれば生活パターンが変わるだけでなく、ほとんどの場合、生活レベルが落ちるのが避けられない(自宅でパラサイトシングルをやっていれば尚更)。後述するように、生活レベルを維持するだけの見合ったパートナが、極めて限定的にしか存在しないからだ。

この本では「負け犬(b)」層は射程外になっている。いや、この本だけでなく、多くの恋愛シーンでも射程外になっている可能性が高い。「(男性から)女性とは認識されない」といった暴言に近い発言まで飛び出したりする場合もある。恋愛/結婚できない男性が増えているというのはマスコミなどでも大々的に扱われているが、その陰で、こういった「負け犬(b)」層が(恐らく意識的に)無視され、全くフォローされていないのは不思議である。

それでは男性の場合はどうだろうか。

ii)負け犬マトリクス(男性版)

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図2 負け犬マトリクス(男性版)
※各層の%は人数の割合を示すが、あくまで感覚的なものであり、何ら客観的なデータがある訳ではない。

男性の場合、昔は女性とは逆に、社会的ステータスの効果が断然大きかったが、社会が裕福になるにつれて、個人的ステータスの割合が大きくなりつつあり(「選ぶ側」と「選ばれる側」も参照)、その両方で資源価値が評価されると考えられる。これを表したのが図2である。感覚的なものではあるが、各層の比率が女性版と異なっていることにも着目して頂きたい。女性に比べて、男性は恋愛格差が両極端に振れやすいことを反映している。

ここで、「判断保留」となっているのが2カ所あるが、これもまた男性の場合の特徴である。社会的ステータスは高いが、個人的ステータスは低い層(「判断保留1」)、逆に個人的ステータスは高いが、社会的ステータスは低い層(「判断保留2」)は、通常であれば「負け犬」側に来る可能性が高い。しかし、「判断保留1」では、桁外れに飛び抜けた大金持ち・資産家であれば、資産目当ての女性が集まることはあり得る。果たしてそれが幸福な恋愛、あるいは結婚なのかどうかは不明だが…。「判断保留2」は後述する。

iii)負け犬マトリクス(パートナ版)

上記のように、女性、男性それぞれのマトリクスを描くと、ではそれぞれがどのようにリンクしているのかが気になる。これを図3に示した。

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図3 負け犬マトリクス(パートナ版)
※各層の%は人数の割合を示すが、あくまで感覚的なものであり、何ら客観的なデータがある訳ではない。

日本の結婚シーンでは、依然として「上方婚」、つまり、女性がより社会階層の高い男性を求める傾向が根強く(そうしないと結婚することで生活レベルが落ちてしまうため)、基本的にこれを反映したものとなっている。結婚が「カネとカオの交換」などと言われる(「結婚の条件」(小倉千加子)より。「カネ」がこのマトリクスでは「社会的ステータス」の代表選手であり、「カオ」が「個人的ステータス」の代表選手であるのはお分かりだろう)のはこのためである。もちろん、このマトリクスでは各層の割合が合わないので融通し合わざるを得ない。ただ、女性の「負け犬(a)」層はこれ以上上位層がないので、結果的に踏み切れないまま未婚を続けることになる(もちろん、シングルを選択するのは全くの自由であり尊重されるべき。ただ、良い相手がいれば結婚したいという割合は、9割をキープしており、それほど減っている訳ではない、という指摘もされている)。

恐らく、そろそろ「上方婚」から発想の転換をすることが必要になってきているし、一部ではすでにそのきざしが見られる。先に男性版で指摘した「判断保留2」の層であるが、社会的に成功し、経済的にも裕福な女性の「負け犬(a)」層がこの若く、イケメンで、話も面白く、性格も良い「判断保留2」層をターゲットにし始めている。負け犬マトリクスは、社会や人々の意識の変化に応じて、これからも塗り替えられていくものなのである。

Posted: 2004年07月05日 01:10 このエントリーをはてなブックマークに追加
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