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2008年02月17日

コンビニが支える「安心社会」

Society

タイトルの「コンビニ」は現代の(フランチャイズなりチェーンなりで)全国展開している企業の象徴としてのものであり、特にコンビニだけを指している訳ではない。「安心社会」というのは「安心社会から信頼社会へ」(山岸俊男)の意味においてである、と言えば、過去に読まれた方であれば、恐らくこれからの話がすぐにお分かり頂けるものと思う。

「安心社会から信頼社会へ」では、見ず知らずの他人を信頼するかどうかという点において、米国に対して日本では信頼する傾向が低いことを繰り返し実証検証の中で示されており、流動性が高まり「安心社会」の崩壊にある中で、日本が「信頼社会」の実現に向けて、不確実性の中で個人を信頼していくことの可能性を問いかけている。しかし、実際には今なおそういう方向に向かっている訳では必ずしもない。そうした中で、誰にでも同じサービスを提供する企業は、日本の「安心社会」を支える上で意味があるのではないか、ということである(*1)。

(*1)厳密には、「安心社会から信頼社会へ」では、そもそも「能力に対する信頼」と「意思に対する信頼」を区別して、かつ後者についてのみ議論しており、企業が提供する商品・サービスは、前者に該当するとも言える。ただ、後述する偽装問題のように、不正をしても自分が利益を上げるかどうか、というのは、経営者を含むある種「法(の上での)人」としての意思である、とも言えるのではないか。

以前、

[society] はてなブックマーク > コンビニ問題 - 狂童日報

を読んで、「匿名の安心感」という指摘が非常に面白かった。サービスビジネスにおけるおもてなしとして、リッツカールトンのような高級ホテルが、個人を認識し個人に合わせた体験を提供することで、価値を高めているのに対し、コンビニでは見知った顔でも(こちらから求めない限り基本的には)知らない人と同じように対応してくれる。だがそこにはある種の安心感があるという訳だ。(逆に、個人を認識して対応されると嫌という人も多いのではないか。)

一般に、大企業は「概ね」生活者に対して悪いことはしないことが期待される。特に上場している企業においては、株主に対する情報公開が求められるし、コンプライアンスやCSR(企業の社会的責任)への関心も高い。「偽」の一字に代表されるように、偽装が2007年に一種の「ブーム」にもなったが、メディアが溜飲を下げるネタとして「悪者」を探して跋扈している中では、ひとたび不正がバレれば、ビジネス上致命的な状況に追い込まれることが分かっているから、企業は多少の利益を犠牲にしても、不正に気をつけるようになってきている。

もともと、人における「安心社会」は、お互い皆顔見知りでムラ社会の固定的な関係の中で、よそさまを裏切るような行動を取れば、村八分になってしまうがために、悪いことはしない、という理屈だが、不祥事やスキャンダルを好んで「商品」にしている大手メディアが、不祥事を起こした企業を寄ってたかって「村八分」にしてしまうため、同じような状況が起きているのである(そして、ローカルな企業の不祥事では「商品価値」がないため、何かあっても大きく取り上げられにくい)。

また、もし何かトラブルがあっても、訴訟相手として、個人では(裁判上はともかく)実質的に余り金銭的補償を勝ち取ることは期待できないが、企業相手であれば可能性はある。もちろん、今でも悪質な訪問販売などにダマされる人は少なくないし、消費者保護への意識はより一層高まりつつあるが、金銭的に大きな不自由がなく、ある程度モノを見極められる人にとっては、むしろ消費者の方が有利な時代にさえ思える(*2)。

(*2)企業間のビジネスにおいても、日本では個人より企業を信用する傾向が強い。実際、中小企業ではそうでもないかもしれないが、大企業が個人に仕事を発注するのはかなり難しい。よほど業界の有名人であれば「バイネーム」で個人を指名して発注することもあるが、無名の場合にはほとんど可能性がない。もし想定した実力がなかったり、「蒸発」されても替えが効くことを企業は求めるからだ。個人を信頼し、リスクをとって発注する代わりに、高くて効率は悪いし、企業名で実際に提供される価値がプアであっても、企業が提供する「安心感」を求めるのである。それが個人にも広がっているとも考えられるだろうか。

社会と人間関係の流動性の高まりに対して、コミュニケーションの負担を下げる仕組みが以前に取り上げた「空気」であり「お笑い」であった訳だが、安定的な地域社会もなく、個人的な信頼関係も築きにくい時代にあって、コンビニを始めとする大企業が提供するモノやサービスが孤立化する個人を支える役割を果たしている。個人商店が大手のコンビニチェーンやスーパーマーケットに飲み込まれていく、生活者自身が地域の店よりもそういった大企業をむしろ選択してしまう背景には、こうした「安心を求める」状況もあるのだろう(*3)。

(*3)経営している家族を良く知らない家族経営の無名コンビニと、セブンイレブンが隣同士に並んでいたらどちらに入るか、ということを考えれば。

ただ、安心を求める余りに、企業が不祥事を起こすたびに国による規制強化を求めるのはイマイチ筋が悪い。企業と生活者の情報の非対称性を解消する、情報開示の部分だけは、しっかりと監視していく必要があるが、建築業界の「官製不況」のように、規制を強化すればビジネスのオーバーヘッドが大きくなるばかりだし、利権の温床にもなる。それに、いつも国が何とかすべきだと言うだけでは、商品を選ぶ目も磨かれない。「信頼社会」で言えば、ちょうど、不確実性の中で、ある人が信頼できるかどうかを見抜く力に当たるだろう。生活者がモノやサービスを見る目を磨き、商品の購買(または不買)や、あるいは株式などの投資といった「選択」の力を通じて、市場によるガバナンスを構築していくことを合わせて目指すべきなのだと思う。

4121014790安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)
山岸 俊男
中央公論新社 1999-06

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2008年02月13日

ニュースメモ(2008/02/10-2008/02/16)

News

【2008/02/13】
[society] 時短~なぜ早く帰れないのか
直球。「残業が増える理由は会社側、働く側双方に」って割合的には圧倒的に働く側にはどうしようもない回答の方が多いじゃん。消費者のサービス業への要求が世界一高いのではという当サイトでもいつも言っている指摘も。データ、事例とも面白いです。リクルート自体の状況、取り組みの紹介はないんでしょうか。

[society] 最低賃金引き上げを起点とする成長力強化・所得底上げへの戦略~英国の経験を踏まえたワーキングプア解消への処方箋~
返って失業を増やさないために、好景気と生産性向上の持続が必要、など。

[society] 地方よ反乱せよ
財源と権限を中央から獲得せよ、と。

[society] はてなブックマーク > EU労働法政策雑記帳: 世の中の問題の多くは労働問題なんだよ
確かにsocioarcも社会現象に関するニュースを拾おうとしているのに、労働問題が多いですね。「世の中の「問題」の9割は金(経済)で解決する」って話もあるけど、(他の職業はともかく)産科医療は人手不足の負のスパイラルに入っていて、報酬上げれば解決するという感じがしない。

[society] はてなブックマーク > ・・・とあるお話 - 新小児科医のつぶやき
梅田氏のところで将棋の棋譜の共有(とそれによる進歩)のエントリがありましたが、判例は個人を特定できない形でどんどん公開してくれていいのでは。

[society] はてなブックマーク > On Off and Beyond: 書評:クルーグマンのThe Conscience of a Liberal
GNH(国民総幸福量)を高めるには中流階層の復権が必要か? 日本は周回遅れで追っかけてるというところですか。
関連: [society] はてなブックマーク > 福田政権の無為と女性的資本主義について (内田樹の研究室)

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2008年02月08日

ニュースメモ(2008/02/03-2008/02/09)

News

【2008/02/08】
[society] 人口減少社会の地域活性化戦略
この方は観光による地域活性化が持論ですが、消費者が減る以上、海外から観光客を集める必要があり、わざわざ海外から呼び込めるだけの観光資源を持っている地域がどれぐらいあるのか、ということがあるし、英語、中国語といった外国語にどれだけきちんと対応できるか、ということもある。プチ東京化を目指してる場合じゃないことは確かですが、無理に観光資源を作ろうとしてハコモノ作ってたら夕張ですし。「観光産業は21世紀のリーディングインダストリーになり、もはや旅行・観光産業の発展なしには、一国の経済発展はあり得ない」という話も。

[society] WLB(ワークライフバランス)に関する調査 (pdf)
アンケート回収率が3%未満てどんなけ。ある程度意識の高い企業しか返却してないことが想定され、母集団が微妙ですが、その中でもWLBの推進体制があるのは1/3で先は長い。

[society] はてなブックマーク > 人不足 - 2008-02-07 - strange
これは確かにそう。そしてそうでないとやっていけない産業だらけなのが異常。ただ、過去、看護師不足の時は一定の賃金の「適正化」があったようですが、今不足している職業でそういうことになっていないのは、市場的に(生活者的に)それだけの価値があると認められていないためなのか、皆に余裕がないという時代の違いなのか。

[society] はてなブックマーク > 世界の片隅でニュースを読む : 「非正社員が正社員になりたかったら、正社員の解雇自由化に賛成しろ」という悪魔の囁き
分割統治問題。「希望は戦争」もこのトーンありますし。

[society] はてなブックマーク > asahi.com:なまはげ「正しい暴れ方」 若者激減、ルール伝授難しく - 暮らし
「なまはげ」「泣く子はいねがー」の語感の可笑しさで笑えるけど、いくら伝統の継承っても、これはちょっと「ルール」を現代版に合わせないとダメかと。「消防団」問題にも似てるか。

【2008/02/06】
[society] グラフで見る景気予報:2008年2月
生産と雇用の予測が先月に比べ軟化。

[sociery] はてなブックマーク > さらば!「豊かな国日本」 - ビジネススタイル - nikkei BPnet
色んな反応が。感覚的には(特に欧州に対して)昔からそんなに豊かだったか、というのがあるけど。

[society] デフレから毒餃子へ - Baatarismの溜息通信
[society] 毒餃子と食料自給率? - Economics Lovers Live
そんなに人間合理的じゃないですしね。政策的に無理に食料自給率を高めようとするのは筋が悪いけど、生活者が国産にカネを出すようになる(それによって食料自給率が高まる)のはそれはそれでいいんじゃないのとは思う。

[business] 広告β:神様に競争を投げ返す
顧客の競争構造ってのが面白い視点。

[work] 現場のリーダー論 - オリーブの牧杖 (セプトル)
このプラント建設所長の回再放送で見ましたがアツかったですね。

【2008/02/05】
[society] 日本経済の成長力持続の鍵
地域の活性化が重要であり、そのための道州制の可能性。

[society] 個人の視点に立った経済成長
これまでの経済政策は企業が豊かになれば個人も豊かになるという前提のもとで行われてきたが、それが繋がらなくなってきており、個人の視点を含めて考える必要がある、と。米国と日本では1990年以降の個人消費の伸びの違いが明らかですが、単に人口増減の違いだけなのかな…サブプライム問題とか見てると。

[society] 正社員のクビを切りやすくする改革は受け入れられるか
大手メディアの中核人材自身が正社員の中で自ら首を絞めるメッセージが出せるかどうか。

[society] 物価上昇-働けど、働けど、我が暮らし楽にならざり
特に新しい話ではないですが、こういうことですかね。

【2008/02/04】
[society] 就業構造変化の国際比較~サービス産業の拡大と女性労働参加の促進~ (pdf)
米英に比べれば第2次産業の比率が高いが第3次産業へのシフトは進んでいる(っても派遣とかが第3次産業としてカウントされるからな)。EITCというのは知らなかったんですが、米国では負の所得税が導入されているんですね。

[society] 軟化の兆しを見せ始めた雇用情勢―見直しを迫られる日本経済の自立経済シナリオ― (pdf)
団塊世代の引退による人手不足どころか労働需要はむしろ低下傾向。

[society] 2007年度・新卒者採用に関するアンケート調査結果の概要
重視する要素は5年連続で「コミュニケーション能力」。

[business] あそび産業 人生を豊かにするための場やモノ、サービスを提供する (pdf)
経済的なゆとりがなければなかなか「あそび」もままならないかと。確かにニコ動とかネットは安価な娯楽ですが。

[work] ブログで社会科見学しようぜ! :Heartlogic
面白い企画ですね。13歳のハロワよりリアリティあるかも。でも今トップに上がってるコンビニオーナーとか見る限り、ブラックなリンクは控えめかな。

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2008年02月05日

サイレントテロに「対策」はあるか

Society

若者を中心に、現代日本の社会現象として広がる、ニート、ひきこもり、非婚、自殺など、社会の生産活動からの撤退により、長期的なスパンでの社会の自壊を意図する(非)行為を総称するのが「サイレントテロ」であるが、(本来的な)テロが、国を超えて対応に取り組まれているのと同様に、果たして「サイレントテロ対策」なるものは存在するのだろうか。

[society] 考えるための書評集 若者たちのサイレント・テロ
[society] 「どうして日本の若者は反乱しないのか」?それは無抵抗こそが最高の復讐だからだ。 - こころ世代のテンノーゲーム

暴力による破壊的テロには、直接的には、テロ対策特殊部隊による鎮圧や、長期的には(必ずしも成功しているとは言いがたいが)、資金源を断つ経済的な封じ込めがある。もっと小規模な、無関係な他人を巻き込むマイクロテロと呼ばれる犯罪には(是非はともかく)監視アーキテクチャの強化といったことが考えられよう。テロではないが、政治的行動であるデモ(日本のそれは諸外国に対して大人しいようだが)に対しては、法律や警察による適切な「管理」がある。

しかし、そもそも、能動的な行動を何もしないサイレントテロに対する有効な積極的対策はそれほど容易ではない。税金源・年金源が減ることや、将来的な社会保障の増加を恐れてか、政府・自治体から働きかける例として、先日発表された、東京都の「ひきこもり予防」のような対策が出てきているが、

[society] はてなブックマーク > 「セーフティネット」地獄 - (元)登校拒否系

「セーフティネット」というにはどうにも違和感というか、「誰のためのセーフティネット? - 非国民通信」の「セーフティネットというよりは投網に見え」るという指摘の方がむしろしっくりくる。

まず何が何でも生産活動に駆り出さなければいけないという「常識」から一歩距離を置いてみる。「(暴)力」によるテロを、「力」によって対応するアナロジーで考えるのであれば、社会からの撤退、社会に対する「沈黙」であるサイレントテロに対しては、やはり「沈黙」が有効である可能性である。

経済成長を支える労働力や税金・年金の財源、次世代育成の要員として人数を計算しているから、期待通りに働いてくれなかったり、子どもを生んでくれないと社会システムが破綻し(特に逃げ切り世代が)困る訳だ。だとしたら初めから「存在しなかった人たち」としてあらゆる社会システムを設計することは考えられないだろうか。ただ、政治の本質が資源の再配分であるとして、再配分の原資として期待しないのと同時に、再分配の対象としてもカウントしないとしたら、そこには非情な「自己責任」の世界が待っている。サイレントテロリストが加速度的に増加し、社会が自壊するのが先か、サイレントテロリストが音を上げる(*1)のが先か、「沈黙」の根気比べ、ということになるだろうか。

(*1)ここで「音を上げる」というのは、個々のサイレントテロリストが、社会保障の対象外になることで、生活できなくなり音を上げる、ということを指しているのではない。サイレントテロは自爆テロの一種であり、自らは未来のより良き社会の礎として犠牲となり、子孫を残すことなく消えていくことには何の躊躇いもない(はずである)。そうではなくて、サイレントテロによっても社会システムが大きな問題なく維持され続け、「沈黙」によっては何も変わらない、声を上げる(政治的活動に打って出る)か、手を上げる(テロ or マイクロテロ)しかないと挫折することである。

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